夜半の戸締り御用心! //落乱-鉢尾小説 万年時計のまわる音

■読む前に注意点■
・ちょっぴりやらしい鉢→→尾
・言葉足らずな鉢屋×ヤリチン尻軽野郎な尾浜
・竹谷と久々知が恋仲である表現有

それでも大丈夫だよ!って方はどうぞ↓↓


木の葉が風で擦れさわさわと心地よい音を立てる。
星明かりだけが輝く闇に沈黙した忍たま長屋の一角で、引き戸が音を立てずに細く開いた。その隙間からひとつの人影がするりと忍び出て無音で戸を閉める。その人物は気配を絶ったまま夜の学園内へと消えて行った。

夜半の戸締り御用心!

今宵は新月だ。

忍術学園一忍者している男・潮江先輩はさぞかしギンギンに鍛錬して居るのであろうが、そこまでの熱意を持たぬおれには関係のない話だ。

ごろりと寝返りを打ち、尾浜勘右衛門はおひさまの匂いのするふかふかの布団に顔を押しつけた。やはり天日干しした布団はいいものだな、とその寝心地の良さを堪能して、持ち主の代わりに干しておいてくれた同室者に感謝した。

いつもは狭い長屋も1人だと何となく広く感じられる。先ほど感謝したばかりの同室者・久々知兵助は同級生の竹谷八左ヱ門と夜のお散歩するのだとかで留守にしていた。――お散歩、なんて可愛らしいことを言っていたが、欲望を持て余した若い恋人同士、最終的には2人して朝帰りになるに違いない。そう踏んでいる勘右衛門は、布団と同じくいい香りのする枕を引き寄せてもふもふと顔を埋めて柔らかさを楽しみつつ、明日八左ヱ門をどうからかってやろうかなんて下らないことを考えていた。下世話なエロトークは大好物だし、同室の床事情も一度聴いてみたいところだ。何より顔を赤くして嫌がる八左ヱ門をしこたまいじるのはどれほど愉しかろう。

そんな下らない思索に耽っている中、部屋の前に微かに人の気配を感じた。伝わってくる微かな気配から相手は意図して忍んでいるらしい――優秀な忍たまである勘右衛門は、常に寝床に忍ばせている苦無を手に息を殺して様子を伺う。

暫く後、暗闇の中でわずかに戸が開く気配がした。一歩、部屋へ足を踏み入れたらしい。勘右衛門は気配を伺いつつ素早く思考を巡らせる。

夜の散歩から帰ってきた兵助が勘右衛門を慮ってそっと帰ったのなら、勘右衛門には長年の付き合いから戸の開け方、微かに感じる気配ですぐそれと分かる。もし級友や先輩後輩、先生でどうしても用があるなら声をかけてから戸を開けるだろうし、第一家主が既に寝ていると思われる部屋に気配を経って忍び寄る必要はないはずだ。神経を研ぎ澄まし相手の気配を探りながら寝たふりを続ける。

闖入者は戸を閉めてから、暗闇の中でも迷いのない足取りで勘右衛門の寝ている布団に近付いてくる。絶たれた気配や足音のしない歩き方からして間違いなく忍者だろう。学園の関係者か、――あるいは。…いや、それはないか。どちらにせよ不法侵入する意図を読み取らねばなるまい。

その人物は勘右衛門の布団の脇でピタリと動きを止めた。見下ろしてくる視線を感じつつ、勘右衛門は布団の中で眉を顰め、詰めていた息を細く静かに吐き出した。掌の水分をそっと拭ってから苦無をしっかりと握る。暫しして、じっとこちらを見下ろしていた人影が身をかがめる動きを見せた。それを合図に勘右衛門は素早く掛布を弾き上げた。薄闇に苦無がひらめく。

だが、相手は驚いた様子もなく素早い動きで懐から苦無を取り出し、勘右衛門の攻撃を受け止めた。ガキン、と金属と金属がぶつかる鈍い音が暗い室内に響いた。

「……何のつもりだ、鉢屋…」

ギリギリと刃物のかみ合う音の隙間に、勘右衛門は苛立たしげに低い声で侵入者を詰る。

鉢屋三郎は隣の組の級長、すなわち勘右衛門の委員会仲間である。

名指しされた侵入者は驚きもせず、一層腕に力をこめつつニヤリと笑った。

「何って、野暮なことを訊くなよ。決まっているだろう?」

互いに見知った人物であることを理解してなお物騒な押し合いを続ける――勘右衛門は分かった上で仕掛けたのだからやめる理由はないのだが。曲者も苦無を持つ手に力を籠めつつ、性質の悪い狐のような微笑を浮かべた。

「夜這いだよ」

刃物で押し合う殺伐とした状況にはひどく不似合いな低く艶っぽい声音で囁くように答えた。嘯く鉢屋を勘右衛門は黙殺する。

どちらも引かず暫く拮抗状態が続いたが、次第に勘右衛門の形勢が不利になってくる。万力鎖を得意武器とする勘右衛門の方が腕力は上だが、自然と下から攻めることとなったため如何せん体勢が悪い。ついに押し切られて勘右衛門の苦無は宙を舞い、布団に押し戻され転がった体勢のまま、勘右衛門は喉元に得物を宛がわれて動きを封じられた。

迫り合いに勝利した鉢屋は刃物を友人に突きつけたまま、よいしょ、などと呑気な掛け声をかけて勘右衛門に馬乗りになった。

「――鉢屋さぁ、別に兵助見習わなくていいのよ?」

まるで宛がわれた刃物など無いように自然な態度だ。抵抗するでも逃げるでもなく呆れた風に言った勘右衛門を、鉢屋は訝しげに見下ろした。

勘右衛門は面倒くさそうにふぅーと長くため息をついてから、お前さあ、と続ける。

「兵助がハチんとこ行ったから来たんだろ?まー確かに?おれたちはたまに夜伽をするような間柄になったけど。別に付き合ってるわけじゃないんだし、折角今夜は雷蔵がいるんだから雷蔵とイチャイチャすればいいじゃん。夜這いとかいいから」

勘右衛門と鉢屋は少し前に体の関係を結んでいた。

事の起こりは一月ほど前になるか。学園長先生の突然の思い付きが続き、山積みとなった仕事がやっと終わった夜半過ぎ。ようやく片付けが終わるかという頃合いに、突然鉢屋に押し倒されたのだ。生来勘右衛門は面倒臭がりで、性欲は人並み以上にあるが貞操観念が非常に薄い。いわゆる両刀で、事後処理が面倒という理由からどっちかと言えば突っ込む方が好き、という超脱力系尻軽野郎であった。その時の勘右衛門は疲れてはいたが、鉢屋同様缶詰状態を経て溜まってはいたし、色気も何もなく「…ヤりたい。いいか?」なんてどストレートに真剣な表情で聞かれたもので、深く考えもせずまあいっかなんて軽いノリでオッケーしてしまったのだった。

その後、勘右衛門との遊戯を割と気に入ったらしい鉢屋から折々に夜伽のお申込みが来るようになり、貞操観念の薄すぎる勘右衛門としては、突っ込まれる側なのが若干不服ではあるものの、鉢屋が事後処理含め甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのも手伝って、キモチイイしなんでもいいやラッキー、楽チンな上にお手軽なセフレぐらいの感覚で受け入れていた。

その頃、これまた学園長先生の以下略の余波で雷蔵が暫く不在にしていたこともあり割合高頻度にお誘いが来ていたが、ここ暫くはやっと戻ってきた雷蔵の補習や委員会の手伝いだとかで忙しいらしく、鉢屋からのお誘いはなかった。が、面倒くさがりな勘右衛門は相手を探すでもなく手淫で性欲発散し、特に支障もなくのんべんだらりと生活していた。

今宵、隣室に住まう八左ヱ門の処へ兵助が忍んで行ったのを知って来たのだろうことは、この場で事に及ぼうとしている時点で明快である。勘右衛門はふかふかのお布団で気持ちよく迎えんとしていた、眠りにつくまでの至福の時間をつまらん悪戯で妨害されたことに腹を立てたが、夜這いなんてバカみたいな冗談を理由として嘯くものだから怒るのも阿呆らしくなったのだった。

勘右衛門が思ったことそのままをぶちまけている内に、鉢屋は次第に真顔になり、現在は顔を伏せてしまっていた。話が終わっても反応を返さない鉢屋を勘右衛門は不審に思う。

鉢屋?と声をかけるとようやく顔をあげた。が、同時に懐からおもむろに縄を取り出して勘右衛門の両腕を素早く掴み一括りに拘束してしまった。突然の行動で何が何やら分から目を白黒させている勘右衛門を、鉢屋は至近距離から覗き込んだ。勘右衛門の視界いっぱいに見えるその瞳は熾火のようにちらちらと瞬き、微かに含まれた苛立ちの奥に圧倒的な熱を感じさせた。

「私は最初の夜にお前と恋仲になったつもりだし、お前がそうでないと言うのならそうなるようにするまでだ」

「…はぁ?突然何言ってんの鉢屋」

最初の単語と、続く言葉遊びのような言い方にに眉を寄せた勘右衛門は、目の前で熾火がじわりじわりと熱を孕み燃え盛る焔へと変貌してゆく様に、ぞくり、と怖気が背筋を駆け上がるのを感じた。――あ、やばい。こいつ、止まらないし、絶対止まるつもりない。

「お前に私を好きだと言わせてやる。なに、身体の相性はよいのだからそう難しいことではあるまい。まずは身体から口説いていくこととしよう」

「え、いやいやいや意味分かんないんだけど!恋仲!?おれとおまえが!?お前の相手は雷蔵だろ!」

彼の目の色と発言に勘右衛門もさすがに焦り、一周遅れの反駁をしながら自由を取り戻そうと手をもぞもぞ動かしてみるが、さすがは皆に一目置かれている鉢屋三郎である。そう簡単に縄抜けできそうにない。唯一自由な足を使いじりじりと後退しようと試みるが、既に上に乗られている状態では焼け石に水であるのは間違いなかった。――時既に遅し、である。

「雷蔵は一等好きさ。友として、な。情欲の対象としてはお前が一等好きということさ。さあ、観念して私のものになれ」

「やだよ恋仲なんて面倒な関係!それ以上に鉢屋ってだけであらゆる方向で面倒だろうから全力で無理!いいじゃんセフレで!!」

「却下。私は元より恋仲のつもりだと言っているだろう。存外あっさりと夜伽に持ち込めたと思いきやセフレ扱いしていた訳かこの尻軽め。よし。今後他の輩とのまぐわいは無論、手淫も禁ずる。破ったら抱きつぶす。良過ぎて頭ぶっ飛んでもやめてやらんから覚悟しておけ。今までお前の体を慮って控えていたが、これからは二日に一度以上抱いてやるから楽しみにしておけ。とりあえず今夜は抱けなかった数日分たっぷりと楽しませて貰う。逃しはせんから諦めろ」

超具体的な約定を流れるように口にしながら獣のように舌なめずりをして笑う鉢屋にガッチリと捕縛された勘右衛門は、引き攣った笑みを浮かべ首を横に振ることで意思を示しつつ、距離を取ろうとあがくことしかできない。が、拒否の意思すら、顎をつかみ固定されることで封じられてしまう。上から見下ろす瞳は距離があっても分かり過ぎるほどにギラギラと欲望に燃えていた。

「よ、寄るな変態め!束縛野郎は嫌われるんだぞ!……やめろ!こっち来んな!う、うわああああああ!!」

断末魔はすぐに甘い鳴き声へと変わり、本気の泣きが入ってもなお止むことはなく、辺りが白け出すまで続いた。

翌日、勘右衛門は布団から出ることができず、八左ヱ門をからかうどころか鉢屋に世話を焼かれる様を逆にからかわれるハメになったのだった。

その後、日々色艶が増していゆく勘右衛門を夜伽に誘おうとして何者かに襲われる者が続出し、必然的に勘右衛門の身持ちが堅くなっていったのは言うまでもない。


2014年5月にpixivの方で上げていた夜這いの話。
珍しく勘ちゃんにその気はなくて、鉢屋の片思いがベースのお話。勿論この後、勘ちゃんを陥落させます。
手練手管でカラダから。やーねー鉢屋君ったらヘンタイさんなんだからぁ。笑
誰得だって?俺得ですよ勿論()書くのめっちゃ楽しかったです。糞野郎クズ系尾浜が好きな貴方は私と握手!

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