愛だけでは、 //落乱-鉢尾小説 万年時計のまわる音

■読む前に注意点■
・室町オメガバースパロ、鉢屋(α)×尾浜(β)
・β男女はそれぞれの性しか持っていない(孕めるのは女性+Ω男性のみ)解釈を採用。
・事後から始まる微エロ仕立て(通常運転)注意。

それでも大丈夫だよ!って方はどうぞ↓↓


だるさと共にじんわりと広がってくる充足感に、三郎は溜息をついた。
そのまま力を抜いて、己の下で未だ快感に震えている身体に思い切りのしかかる。しっとりと汗ばんだ熱い肌にぺたりと頬をつけると、その内側で忙しなく脈打つ音が伝わってくる。

「……重いし暑い、んだけど」

次第に落ち着いていく鼓動に耳を傾けていると、ようやく震えがおさまった勘右衛門がすぐ耳元で苦情を申し立ててきた。低く落ち着いた常の声音が甘く掠れ、事後独特の空気を纏っているのが魅惑的で色っぽい。

密かなお気に入りであるその声を耳元で聞きたくて、抱き合った後はいつも、わざと彼にのしかかるのだ。同じ年頃の男にのしかかられてはさぞかし重いだろうに、勘右衛門は毎度柔く苦情を言うだけだ。許されている、その実感が胸を温かいもので満たす。心地よさに、三郎は鼻筋を伝う汗を指先で払いながらふふっと小さく笑った。

彼の身の内に収めたままだった、既に大人しくなっている自身をずるりと抜く。引き抜かれる感触に身体を震わせた勘右衛門は、鼻にかかった甘い声を零した。惹き寄せられるようについそちらに目を向けかけたが、再び催した挙句原因本人にジト目で睨まれるのはもうごめんだと我に返り踏み留まる。恋人のえろい姿が見たいという素直な欲求を押し殺し、向けかけた視線を無理やり引き剥がした。

「ちょっと寄ってくれ」

そう声を掛けると、刺激をやり過ごした勘右衛門が身体をずらしてくれる。空いた半分のスペースに転がるようにして横になると、少しひんやりした布団の表面が火照りの抜けきらない肌に心地よい。程よい冷たさを楽しんで、満たされた気持ちよさを吐息にのせて吐き出した。

暫し布団に戯れてからそろそろ落ち着いたかと傍らに目をやると、やや顔を背け静かに呼吸を整えている勘右衛門の、肌蹴た夜着から伸びる肩から首のラインが目に飛び込んで来た。生白くなめらかで魅惑的なうなじに目を奪われた三郎は、本能に突き動かされるように、衝動的にがぶりとそこに噛み付いた。

「っ、たぁ!……もー、噛み付くのやめろって言ってんじゃん…俺、Ωじゃないんだから。痛いし目立つだけなんだけど」

これまでに何度となく聞いた不平を述べつつ三郎の噛み痕を撫でる勘右衛門は、言葉とは裏腹に少しだけ口角を上げていた。僅かに血の滲むその痛々しい痕を嬉しげに、愛しげに指でなぞるその姿が愛おしい。

痕を辿る指を捕まえて引き寄せ、導かれるまま顔を上げた勘右衛門の視線を搦めとる。交わりの余韻で潤んだ瞳は、黒曜の石の如き煌めきを放っていた。柔らかく弧を描いた唇にちゅっと音を立てて口付ける。ふっくらとした唇を何度か啄んでから、じわりと血の滲んだ痛々しい歯形を避け滑らかな首筋にがぶがぶと数回、戯れるように甘く歯を立てた。

「目立たせてるんだ、目立って結構。お前が既にお手つきだと分からせておかないとな」
「いや誰にだよ。俺、性別的には抱く側なんだけど。歯形つけるような激し過ぎる彼女持ちって噂になったら嫌だなあ」
「彼女じゃなくて彼氏持ちなんだから問題ないだろ。それからお前は一度鏡を見直せ、そしてもう少し自覚を持て。……と前から言ってるだろう」

三郎は何度となくしてきた己の主張に、相変わらず苦笑しつつ冗談を返すだけで請け合わない勘右衛門を半眼で睨め付けた。不服さを表情に載せたまま血の滲む歯形を癒すように舌で舐めると、勘右衛門がピクリと肩を揺らし、くぐもった吐息を漏らした。痛みにか快感にか分からないが、鼻を抜ける音がまた魅惑的で三郎の欲を煽る。

勘右衛門は時々、三郎と付き合いだしてからは特に、抗いがたい不思議な色気を醸し出している。彼はβであり、発情期はないしフェロモンも持たない。勿論、その色気にΩフェロモンのような直接的かつ暴力的な作用もない。しかし、独特の色香を纏う勘右衛門を物言いたげな顔で熱心に見つめている者が性別を問わずそこそこいることを、三郎は知っていた。だというのに、当の本人はこの呑気さである。天然もいい加減にしろと言いたい。最も、彼が己のものであることをあの手この手で密やかに広めているので、実際に手を出そうとする大うつけは今の所出ていない。だから心配はないと言えばない、のだが。

もう一度、意識的に本能に身を委ねるようにして首筋に歯を立てた。以前事故でΩフェロモンに当てられた時に経験したものとは異なるが、どうしても抑えられない衝動が三郎を突き動かすのだ。加減してやれないためやはり血が滲んだ二つ目の歯形は、一つ目にやや重なる形で彼のすべらかな肌に残った。しかしそれも、数日も経てば塞がって跡形もなく消えてしまうのだろう。
どうしてこの痕は永遠に刻まれてくれないのか。噛み続けることで彼の本能に、魂に刻み込まれてつがいになれやしないだろうか…。勘右衛門に傷をつけてしまうのは三郎の本意ではないのだが、そんな祈りにも似た願望が、恋人の肌に徒らに傷をつけるだけのこの衝動を助長していた。

しかし、傷をつけられた勘右衛門は痛みに少しだけ顔をしかめたが相変わらず可笑しそうに笑っている。

「――…なんでΩじゃないんだ。既成事実が作れないじゃないか」

殆ど駄々に近い理不尽な不満を垂れると、勘右衛門は笑ったまま困ったように眉を下げた。

「滅多なこと言うなよ。大体、仮に俺がΩだったとしても、先にお前じゃない誰かとつがいになってたかも知れないだろ」
「そしたら相手を殺して私が、」
「おいおい目がマジだぞ物騒だな。……まあ実際俺はβなわけだし、級長になって委員会で出会って、ずっと一緒にやってきたから今こうしてるんだろ。それでいいじゃん」

そう言って綺麗に笑った勘右衛門が、甘えるように胸元にすり寄ってくる。その仕草に三郎はぐっと胸に迫る想いを感じつつ、彼の言を反芻してそれもそうだなと思うことにした。実際彼は三郎が彼を特別に想うのと同じように特別に想い、傍らにいて、己に笑いかけてくれるのだから。

目の前にある丸い額に口づけを落とし、華奢でも何でもない身体に腕を回してぎゅうと抱き込む。嗅ぎ慣れた勘右衛門の匂いを胸いっぱいに吸い込むと、再び温かい思いで胸がいっぱいになった。腕の中の存在におやすみと小さく呟きを落として、三郎はにじり寄る眠気に抗うことなく身を委ねた。

***

「……三郎、寝た?」

囁くように尋ねてみたが、返ってくるのは静かな寝息だけだった。雷蔵を模した恋人の顔を見上げると、安らかな表情ですやすやと寝入っているようだ。勘右衛門は、素顔を隠している忍者のたまごが他人とこれだけ近くにいて熟睡するのは如何なものかとは思いつつも、信頼と愛情の証、特別感を感じて、こそばゆさに口角を上げた。

己を抱きかかえて眠る三郎を起こさぬよう注意しながら、先ほどつけられた首筋の歯形をそっと撫でる。痛いのは確かに嬉しくはないのだが、三郎の強い独占欲と執着を感じられるこの痕に、勘右衛門はいつも幸せな気持ちになってしまうのだ。噛みついてくるのが行為中でないことも、αの本能ではなく彼自身の欲求による行動であることが感じられ、なおのこと嬉しかった。

だが、先刻の三郎の言を思い返して、毎度のことながらどうしても拭い切れない不安と哀しみが勘右衛門の胸に押し寄せる。

「……俺だって、自分がまっさらなΩだったらよかったのになあって、嫌という程思ってるよ……」

ぽつりとひと言呟いて、触れる度に生じる痛みを噛み締めながら静かに目を閉じる。

勘右衛門は平々凡々なβだから、抗え得ぬ本能に強制的に振り回されることはまず無い。だが三郎は違う。神に選ばれた性と言われるαである彼は、能力や立場など様々な面で恩恵を受けた代償に、強靭な生殖本能に縛られている。万が一発情期のΩに出くわしでもしたら、理性を失くし本能のままに性行為に及んでしまう危険性がある。その強制力はΩとつがいになることでのみ和らぐものであるため、βである勘右衛門にはどうしてやることもできない。

もしもヒートしてしまい、Ωと交わってしまったら――ヒート時の性交は妊娠率がかなり高いと聞いている。三郎と誰かの子供なんて見たくもないが、逆らえ得ぬ本能が備わってしまっている以上、そんな未来はどうあってもありえないこと、ではないのである。

また、実際は存在し得ないと言われているが<魂のつがい>と呼ばれる関係性の存在も、勘右衛門には恐ろしくて仕方がなかった。αとΩにだけ存在するという、出逢った瞬間に相思相愛になる運命の相手。三郎の前にそんな人物が現れたら、万に一つも勘右衛門に勝ち目はない。三郎の幸せを思えば手を離すべきであるし、縋りつこうものなら勘右衛門はただの厄介者でしかなくなるのだ。

何よりも問題なのは、Ωはつがいを解消することができない特性を持つことだ。例えつがいになるに及んだ背景が三郎に一方的に好意を寄せるΩの罠だったとしても、優しい三郎には、己に縛られてしまったΩを見捨てることなどできないだろう。変わらず勘右衛門を愛してくれていたとしても、苦しみながらもΩを選び自分に別れを告げてくる様が容易に想像できてしまい、勘右衛門はやり場のない哀しみに胸が苦しくなる。

「……でもな。俺がΩだったら多分、お前は俺に興味を持たなかったと思うんだ。Ωだったら俺はきっと、級長なんか務められなかっただろうから」

優秀な者が多いだけあってαが割合多く所属しているい組に所属し、βである自分が級長を務められること自体そもそも稀有なことだと言えた。こうして同じ委員会で共に過ごし、想いが通じ合って恋人になれた今が、奇跡といえるような巡り合わせなのだと勘右衛門は思うのだ。だからこそ、もしもの話は意味がない。

願わくばこの命が、時間が許す限り、三郎と一緒にいられますように。

――……せめて、三郎が運命のΩに出逢えるまでは。

それはほとんど、三郎の運命の人が現れないことを願うのと同義だった。そのどこまでも身勝手な己の願いに、彼に対する愛情で譲歩をなんとかくっつけた、これが今の勘右衛門の精一杯だ。何度となく思い直しても、これ以上己の願いを、その相手である恋人に対してですら譲れない自分に苦く笑う。

勘右衛門は自身の狭量さを自覚しながら、それでも手放せない愛しい存在に縋り付くように手を伸ばした。三郎を起こさぬよう夜着の合わせを遠慮がちに掴み、安らかな寝息を子守歌代わりにして眠りに落ちていった。

けでは、


[2017/07/06]

遅ればせながらこっちにもUPしておきます。逆バースデー慣習化と思って書いたオメガバース初挑戦でした。
α×Ωも好きだけど、αとΩに介入できないβが切ない話が大好物で…(通常運転)。β×Ωも好きです。βメインのお話スキーさん居たら友達になってほしい…切実に。
鉢屋君がどうしてもαな印象なのでαβがしっくりくるんですが、βΩでも書いてみたい…かも。あとββとか、全員孕める設定でααも美味しそう…。たくさん書いたらオメガバースまとめができそうですね!(言うだけはタダ

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