窓の向こうで消えゆくゆめのせかい //落乱-鉢尾小説 万年時計のまわる音

■読む前に注意点■
・転生現パロが含まれています
・暗めのお話です

それでも大丈夫だよ!って方はどうぞ↓↓


気が付くと俺は縁側に座っていた。
そこは座り慣れた委員会室のそれで、しかし目の前には見慣れた学園の庭ではなかった。
ぼんやりと曖昧で、優しく甘い色が靄のように広がっている。
違和感はない。
俺は何をするでもなく、ただぼんやりと座っていた。

「食わないのか?」

耳慣れた声に視線をずらすと、傍らに狐面の男が座っていた。
彼は俺と同じ忍装束を纏い、色素の薄いふわふわとした髪を結い上げている。
その髪が彼自身のものではないことを、俺は知っている。

何を、と問うとその男は指でこちらを指差す。そこで初めて、自分が手に団子を持っていることに気が付いた。
つやつやとした美味そうなみたらし団子だ。
食べるよ、と返して一口頬張る。もちもちとした食感は素晴らしく、口に広がる甘辛いタレが絶妙でとても美味い。さすがは町で評判の団子屋のみたらしだ。

俺の表情を見てか、狐面はそうか美味いかと満足気に呟いた。言葉の端からじわりと広がる温かさに包まれる。
もう一口頬張ってから、お前は食べないの?と尋ねると、もう無いんだと男は答えた。
ああ、可愛い後輩に自分の分もあげてしまったのか。後輩愛しすぎだろ。
呆れつつも和やかな気持ちになる。
まあ、だからと言って俺は一口だってやらないけど。
そんな固い決意を胸に、ふーんと適当に相槌を打ちつつ最後の一口をさっさと頬張った。

「そこは一口食べるか?って訊くところだろ」

口いっぱいの団子を咀嚼する俺に、狐面が文句を垂れた。
言うと思った。だからさっさと頬張ったのだ。少しずつ堪能するのをやめて。

これは俺の分。お前にやる義理はないね、あー美味い!とひけらかして食べてやった。
すると突如、ぐいと腕を引かれ体が傾いだ。危なく縁側から落っこちそうになり、肝を冷やす。
転げ落ちる危険をなんとか回避して体勢を戻し、ほっと息をつく。それから諸悪の根源を怒鳴りつけてやろうと、奴に向き直った。
だが、突然何するんだ危ないじゃないか!と言う文句は音になる前に消えた。

くちびるに、温かく柔らかな感触。心臓がことりと音を立てた。

優しく撫でられ誘われるままに、団子よりも甘いそれを受け入れる。
ぼんやりとした視界は白で埋まった。

柔らかく甘美な熱さに当てられて、顔が、体がじわじわと熱を帯びて行くのを感じる。
同時に強烈な悦びが湧き上がり、体内で反響するかのように高まっていった。

「…うん、美味いな」

視界を埋めた白いものが狐面に姿を戻した頃、咽喉を鳴らして口内のものを嚥下してからそう言った。
俺の口端から団子の欠片を摘まみとる狐面野郎が、その裏でニヤリと笑ったのが手に取るように分かる。俺は内心だけで舌打ちした。
仕返しとばかりに奴が団子の欠片を口にする前に、つまんだ指先にかぶりついてやった。
いたずらに指に舌を絡め、しゃぶるように舐める。奴がゴクリと咽喉を鳴らしたのを合図に、欠片を器用にすくい取って呑みこんだ。
狼狽する狐面を上目使いで眺めてニヤリと笑ってやると、舌打ちの音が聞こえて彼の白い腕が俺の腰にまわされる。

「この狸め」

愉快そうな悪態と共に甘い唇が再び降ってきて、俺は景色と同じ優しく甘い幸福に埋れた。

 

――ぱかり、と目を開けた。

薄暗い中で、見慣れた白く平らな天井と光の消えた蛍光灯が見える。
頭上のカーテンの隙間から差し込む朝の日差しが、俺を幸福な世界から現実へと連れ戻した。

耳慣れた、しかし若干の違和感を伴う名前を呼ぶ声にカーテンと窓を開ける。
階下の路上には、いつものように級友たちが集まりこちらを見上げていた。
黒髪の親友が遅刻するよと忠告し、相変わらず寝坊助だなとボサボサ頭が苦笑し、早く着替えて降りておいで、と淡色短髪の少年が優しく笑う。

かつての姿と違和感なく重なる、あの頃と変わらない大切な仲間たちがそこに居た。

「学習しないバカは置いてこうぜ、俺たちまで遅刻することないだろ」

もう1人の淡色短髪の少年が呆れたように言い捨てた。
唯一こちらを見上げもしない彼の目は、彼とそっくりな少年に向いている。
その鼈甲色の視線に熱が篭っていることを、俺は知っている。
再会するまで何度も夢で見つめたと同じだったから。―――白い面の下の、それと。

いつも通りの朝。
そこに居る誰一人として、ここに時を越えた揺るがぬ絆があることを知る者は、ない。
無論、俺の胸の奥底に封じられた想いも。

「ごめーん、五分だけ待って!」

重なって重ならない存在に軋む胸を無視してへらりと笑ってみせた。いつも通りに。
幸せで、痛みだらけの日常が、今日もまた始まる。

癒える間を与えられない重たい心を、寝巻きと一緒にベッドへ脱ぎ捨てた。
真綿で首を締めるように俺を甘く苦しめる追憶は、朝陽の中に霞んで静かに溶けて行った。



[2019/08/10]

2014年に逆バースデーと称してPixivにUPしていた小説の焼き直しです。
読んでくださる皆様に感謝の気持ちを、とか言いながらクッソ暗い話とか舐めてんのかよって話だな!?と思って下げていたのですが、、個人的にはとても気に入っているので、HPなら上げといてもいいかなって()
診断メーカーの診断結果の派生小説でした。診断結果がそのままタイトルです。勘右衛門が可哀想な話、昔から大好きなのがよく分かりますね(下種

[ ][ ]