■読む前に注意点■
・現パロ、二人とも社会人で同棲中。
・鉢屋が新卒サラリーマン、尾浜が駆け出しのデザイナーという完全なる俺得設定。
・ちょっとやらしい(通常運転)
それでも大丈夫だよ!って方はどうぞ↓↓
ふーふふーんふんふん、ふふーふふん。
週末の夜、白い息を吐き疲れた体を引きずって帰宅した鉢屋は、扉を開けると同時に聞こえてきた曲とも思えない適当な鼻歌に眉を釣り上げた。
あの野郎。
狭い玄関に雑に革靴を脱ぎ捨て、鞄を放り出すとマフラーを毟り取りつつ長くもない廊下をツカツカと進む。その中ほどにあるドア、さらにその奥の押戸を乱暴に開け放った。
「いやん、三郎のエッチ」
ぱしゃん、と水音を立てて、浴槽の中でわざとらしく身を捩った尾浜に、鉢屋の眉間に寄ったシワがより深くなる。
「…お前、何時頃風呂に入った?」
「ん~、7時くらいかな?おかえりぃ、今日は早かったんだな~」
「早くねえわこのば勘右衛門!もう10時だっつーの!光熱費嵩むから長風呂やめろっつっただろ!!」
「~~~ってぇーーー!!」
怒号とともに脳天に下された鉄拳に、尾浜は頭を抱えて悶えている。
これで何度目になると思っているのか。
家賃その他、2人で折半しているとは言え、薄給の新米社員と駆け出しのデザイナーでは倹約せねばやっていけないというのは常識の範囲内だと鉢屋は思うのだが、尾浜の長風呂癖は何度注意しても治らない。今月に入ってまだ10日と経っていないのに、同様の台詞とともに雷を落とした回数は今日ので片手では足りなくなってしまった。
ああ、請求書を見るのが怖い。
鉢屋はガシガシと頭をかきむしりながら深いため息をついた。
「まあまあ、三郎も入んなよ。今日はあまーい香りの桃の入浴剤だよ。癒されるよ~」
「も、ってなんだ、も、って。お前はいい加減出ろよ!」
「いいからいいから。早く脱がないとお高いスーツが濡れちゃうよ。それとも脱がせてやろうか?濡れた手でよければ」
悪びれもせずやんちゃに笑う勘右衛門を力なく眺めて再びため息をつくと、鉢屋は脱衣所へと取って返した。
開けっ放しだった廊下へと続く戸を閉めてから、ネクタイを解いて洗濯籠へ放る。最近やっと新調した戦闘服は休みの間にクリーニングに出そうと思っていたのでワイシャツ共々適当に脱ぎ捨て、コートとマフラーはだけは皺が寄らないように気を付けてハンガーに掛ける。
身一つとなって風呂場へ戻ると、シャワーの栓をひねって熱いお湯を頭から浴びる。冷えた身体に熱がじんわりと沁み渡っていく感覚が心地いい。だが光熱費がバカにならんと、長々と堪能はせずにそのまま全身を手早く清めて止めた。
髪の先から滴り落ちる水滴が煩わしく、頭を振ってふるい落とすと、湯船から冷た!と文句が聞こえた。
それを無視し、うっとおしい前髪をオールバックの要領で後ろへかきあげて湯船に足を向ける。
先ほどまで湯船全体を悠々と使っていた尾浜は、こっちに飛ばさないでよ、などと文句を垂れつつ長辺の淵に両腕を掛け古典的な入浴のポーズをとっていた。
そのポーズにはあえて触れず空けられた半分のスペースにゆっくりと全身を沈めた。
白く濁った水面から柔らかく甘い香りがふんわりと立ち上ってくる。
この匂いは悪くないな。鉢屋は湯をすくって顔を洗い、香りと温さを楽しんでほう、と満足な気持ちで息をついた。
しかし、だ。
「せ ま い 。」
さして広くもない湯船に成人男性が2人、並んでぎゅうぎゅう入っている様はむさ苦しく滑稽である以外の何物でも無いだろう。
「お前もう十分過ぎるほど温まっただろう、いい加減出ろマジ邪魔」
横にある身体を膝でグイグイと押しやるが、尾浜は湯船から出るどころか体の方向を変えて鉢屋に脚を絡めてきた。
より狭くなってあからさまに嫌そうな顔をした鉢屋だったが、よく温まった尾浜の肌がまだ温まり切らない己の肌に心地よい温もりを与えるのを感じて、これはこれで悪くないとも思った。
「優しい勘ちゃんがお疲れなはちやくんのお背中流したげようかと」
「さっき身体洗ってたのしっかり見てただろうがこのクソ狸」
「あ、バレてた?てへぺろ☆やー、素敵なカラダだったんで勘ちゃん見惚れちゃったぁ」
「ぶりっ子ごっこすんなウザい。しかも内容が変態でキモい」
「えーひどーい。つーか三郎冷たいから触んないでー」
「お前が触ってきてるんだろうが」
尾浜のお茶らけたセリフに負けじと文句を返しつつ彼に向かい合うよう向きを変え、尾浜の脚の内側に自らも脚を伸ばすことで絡められた脚を退けた。すると伸ばした鉢屋の脚に、先ほど触るなと言った尾浜が無言で触れてくる。
温かい指先が、日中あちらこちらを駆けずり回って草臥れた脚をゆるゆるとさすり、柔らかく圧力を掛けてくる。鉢屋は何も言わずに彼に委ねた。
ゆっくりとふくらはぎから足首、足の裏を経て再びふくらはぎへ。時間を掛けて両脚ともゆっくりと揉みほぐされていく。鉢屋は白い水面下、マッサージしている箇所を見つめているのであろう尾浜の伏せられた睫毛を目を細めて眺めてから、ゆっくりと目を閉じた。
「ほい三郎、あっち向いてー」
掛け声と共に軽く膝を叩かれて意識が浮上する。どうやらうたた寝をしていたらしい。鉢屋はゆっくりと目を開けた。
覚醒しきらない頭で、言われるがままにノロノロとした動作で身体の向きを百八十度変える。尾浜の足の間に座る形で腰を落ち着けると、温かい指先が冷えた鉢屋の肩に触れ後ろへ引かれる。尾浜に寄りかかる体勢で肩まで湯に浸かった鉢屋は、全身を温もりに包まれて心地よさに微睡む。目を閉じたまま首から肩、両腕と順番にほぐして行く尾浜の指の感覚を追う。
暫しして、不意に背中に圧力がかかり少し前のめりになる。尾浜の指先が鉢屋の膝へと触れ、そのまま太腿を徐々に上に移動するように揉んでゆく。と。
「やだァはちやくんたら、そんなに気持ちよかったのォ?」
「…っぁ!?」
ふざけたオカマ口調で言いながら尾浜がクスッと笑い、それと同時に与えられた急な刺激に反射的に声が漏れた。
微睡みから一気に引き戻された鉢屋の視界に最初に飛び込んできたのは揺らぐ白い水面と、そこから時折ちょこちょこと顔を出す自分の息子だった。
与えられる刺激とその映像に対する衝撃とで急速に覚醒し、その元凶である腕を辿っていくと、鉢屋の股間あたりを眺め妖しく笑う尾浜の顔が至近距離にあった。
三日月形に細められた目は短くも密に生えた睫毛に縁取られ、その上に乗った小さな水滴が光を弾いてキラキラと輝く。
口角の上がった唇は紅を刷いたようで、火照り気味なくらいに血行の良くなった肌は桜色に染まっている。
艶やかな尾浜の様に、鉢屋は彼に気づかれないようそっと生唾を飲み下した。
「かーわい~声。…今日こそは、三郎の処女…」
このエロ狸が…まだ俺の尻狙ってたんか危ねえ。
低く掠れた尾浜の独り言に尻の危険を感じた鉢屋は、それ以上に己の欲求に突き動かされ、素早い動きでご機嫌に笑う尾浜の頭を掴みガッチリと固定した。そうして、目の前にある桜色の首筋をねっとりと舐め上げる。鉢屋が覚醒しているとは思っていなかったのだろう尾浜が急な出来事に驚いて一瞬固まった隙をついて耳穴に遠慮なく舌をねじ込む。
「ひゃ、ぁ!耳は、だめだって!ず、る…っ」
身を捩る尾浜の抗議の声を契機に耳を解放し、代わりに艶めく唇の薄く開いた隙間から口内に侵入した。舌先で口蓋をくすぐり、歯列をなぞる。少しザラつく舌の表面を何度も舐ると尾浜が身動ぎし、抗議の言葉が崩れたらしい甘くくぐもった音が漏れ零れた。
尾浜の舌は不思議と甘い。鉢屋は彼の精一杯の抗議を無視し、吸ったり舐めたり思う存分彼の口内を堪能する。深すぎるキスに尾浜の気を引き付けておいて、鉢屋は身を捻り彼の身体へと指を忍ばせた。
「んん、っ…!」
探り当てた尾浜のそれは、乳白色の湯の中で緩やかに身をもたげていた。先ほどのお返しと優しく揉みしだき快楽を塗り込めるように撫で上げる。次第に硬くなっていく彼自身に気分を良くしながら、恋人の魅惑的な様に歯止めが効くわけもなく、鉢屋はそのまま彼を隅々まで愛で味わい尽くしたのだった。
◆
「っはー…、いい湯だった」
「何がいい湯だ、このエロ狐…!」
「先に仕掛けたのはお前だろうが、このエロ狸」
腕の中でぷんすこ怒る尾浜の頬を軽く抓って虐めつつ、鉢屋は文句を返した。
湯船から出られなくなった尾浜に甲斐甲斐しく世話を焼き、寝室へ運んだ頃には既に日付が変わっていた。彼を寝床に横たえて、思い出したように空腹を訴え出した己が腹を慰めようとその場を離れようとした鉢屋は、恋人に可愛らしく乞われ――だったらよかったのだが、羽交い絞めにあい力技で布団の中に引きずり込まれた。色気もなにもない。
その結果、哀しくも空きっ腹を抱えたまま、嬉しい同衾状態に至っているのだった。つついたり抓ったりと尚も続けられる鉢屋の嫌がらせは、半分が愛、半分が憎らしさで構成されている。
「人に文句つけといて結局長湯」
「それは……やっぱりお前が悪い」
「なんでだよ」
「お前がエロい顔するから」
じろりと半眼で睨んできた尾浜にニヤッと笑って返すと、尾浜は面食らったような顔をしてプイッと反対を向いてしまった。彼らしい反応に思わず笑みがこぼれ、少し開いた距離を詰めて再び抱き込み直した。
背後からのためよく見えないが、のぼせ気味の尾浜の頬は恐らくそれ以外の理由も含めてまだ熱っぽい。堪らず寝間着の襟ぐりから覗く滑らかな首筋に顔を埋めると、彼自身の香りと淡い桃の香りが混ざり合った独特の甘さが鼻腔に広がった。胸に広がる愛しさに、ちゅ、と小さな音を立ててそこに己の印を刻みつける。
「…へんたい」
小さな暴言が耳に届くと同時に、背後から回した鉢屋の手にそっと指が絡められる感触を覚えた。思わず笑みが零れる。空腹感はとっくの昔にどこかへ消えてしまっていた。
そのまま鉢屋は非常に満たされた気持ちで、先に聞こえ始めた寝息に誘われるように静かに眠りに落ちていった。
小さな幸福に満ちた休日は、まだ始まったばかりだ。