朱くなれども、俺は俺 //落乱-鉢尾小説 万年時計のまわる音

「――お前さあ……、」
「ん?」

おちょくるような態度を取っていたら、呆れたようにため息をつかれた。だがそう言う三郎の耳は朱く染まっている。
小首をかしげ先を促せば、彼は言葉を切ってじっとこちらを見つめてきた。見つめ返した薄色の瞳が次第にその濃さを増していく。それを眺め淡く興奮を覚えた勘右衛門は、笑みを深めた。しかしこちらは微笑みかけただけだというのに、彼は唐突に眉をひそめる。

「この間逆の立場だった時に私がどうしたか、覚えてるよな?」

しかめつらしい顔のまま、具体的ながらも遠回しに批判してくる。
この間、といわれて一瞬考え、すぐに一月ほど前に直球で誘われた時のことだと思い至った。

あの時、誘いを断った勘右衛門に三郎は食い下がってくることもせず、ただ欲を殺そうと格闘していた。だがその反応を受けて勘右衛門は、大切にされている実感といじらしい彼への愛しさが急騰して、むしろやる気になったのである。
つまり結局は勘右衛門が三郎の希望に応えてやったのだ。そして今はどうしても三郎に触りたいし触られたい、そんな気分だった。故に三郎の言外の『私の意思を尊重してくれ』という要求に対する勘右衛門の返答は却下一択である。

批判など素知らぬふりで微笑を浮かべてただ見つめ、無言で己の希望をゴリ押す。
すると暫しの間こちらを半眼で見ていた三郎が、不意にこちらに向き直った。そのまま腕をつかんで引き寄せられる。その時点で、もう片方の腕は既に腰に回されていた。未だしかめ面しいその顔には、しかし満更でもないのだとありありと書かれている。

笑ってしまうくらいにちょろいな、あと少しで陥落できそうだ。
勘右衛門はされるまま彼の膝上へ乗り上げながら、至極いい気分で相好を崩した。彼の瞳は今や明らかに欲を湛え、良質の鼈甲のような深い色に変貌している。

だが、そのまますぐに手を出してくるかと思いきや、絡み合っていた三郎の視線が不意に逸らされた。不思議に思ってその先を追うと、彼の瞳は戸口の方に向けられている。
一瞬後に目を瞠ったのを認めて、勘右衛門は可笑しくなって吐息だけで笑った。――今、気が付いたのか。

勘右衛門が笑っていることに気が付いたのだろうか、三郎がこちらに視線を戻す。その眉間には一層深い溝が形成されていた。非常に不服そうな顔である。

「――……この、狸め」
「いやあ、それほどでも」

苛立ちに似た感情を秘めて睨み上げてくる恋人に、したり顔で笑い返した。しかし三郎はそれに応えることなく、無言で勘右衛門の夜着の腰紐を掴む。次いでしゅるり、と柔らかな音が耳に届いた。

勘右衛門は彼を思い通りにできたことに強烈な喜びを感じながら、一転して意欲的に己の身を暴き始めた恋人の額に、愛しさを込めて唇を落とした。

くなれども、俺は俺

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[2020/08/29]

『堕とした末は、深き朱』の超絶蛇足の尾浜目線でした。
タイトルが若干微妙な感じに……文才が欲しい。
お察しかも知れませんが鉢尾の日の分からずっと『朱に交われば赤くなる』からフィーリングをもらって付けています。
鉢屋くんに絆されて(影響されて)積極的になった尾浜くんと、鉢屋くんから影響を受けたはずだった尾浜くんに一枚上を行かれてやきもきする鉢屋くん、美味しいなって思いまして……。
勢い余って当初尾浜目線でも書こうかと思ったのですが(私よくやってますよねハハハ)、なんかいろいろ台無しになる気がしたのでやめました(笑)その一部をリサイクルしたってやつです。笑

こんな蛇足まで見て頂けて、、感謝の言葉しか有りません。ありがとうございます!
少しでも楽しんで貰えていたら幸いです。

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