陸、狐の嫁入り - 室町狐狸合戦! //落乱-鉢尾小説 

陸、きつねの嫁入り

雲一つなくすっきりと晴れた満天の星空の下、闇に包まれた森の中。
肌寒い夜を勘右衛門は一人焚火で暖を取って凌いでいた。
闇夜は忍者のゴールデンタイムだが、山中であるここは獣たちの縄張りだ。そろそろ夜が明ける…それまで火を絶やさぬようにしなければ。勘右衛門はぼんやりと炎を見つめる。

想定外の事態に学園を飛び出してから夜を三回数えた。勝手知ったる裏裏山とはいえ、ありあわせの道具を用いての野営は既に消耗していた勘右衛門にとって厳しいものだった。
ちらちらと蠢く炎の映り込んだ勘右衛門の瞳は瞼の裏に隠れてはわずかに現れ、それと同調して傾く体勢を立て直す動作を何度も繰り返す。

これからどうしよう。

にじり寄ってくる睡魔と闘いながら、勘右衛門は結論の出ない考えに再び沈み込んだ。
がむしゃらに走り続け、気が付いたらここまで来てしまっていた。気まずさからすぐに帰ると言うわけにもいかずそのまま時間を浪費しているが、休暇は残り1週間もない。少なくとも授業開始の前日には帰らねばならない、それ以上に体もそろそろ限界だ。勘右衛門に言わせれば冗談に決まってるだろ、と笑って誤魔化してしまいたい所だが、動転し逃げ出してきてしまった手前それはもう通用しないだろう。
思考の端に薄色の瞳が浮かぶ。暗い雨の中見下ろした、自分だけが写り込んだ凪いだ瞳。あんな馬鹿馬鹿しい真似をした自分を、鉢屋はどう思ったのだろうか……全く想像がつかないという恐怖が勘右衛門をじわじわと侵食したが、幸か不幸か再び訪れた睡魔によって掻き消された。

何十回、何百回と睡魔に圧されては圧し返すことを繰り返した頃、ようやく周囲が薄明るくなってきた。可愛らしい小鳥のさえずりが夜明けを告げ、勘右衛門はホッと息を吐いた。宵から維持してきた火の始末をして少な過ぎる荷物を確認すると、本日の寝床を探すべく腰を上げた。

丁度その時、背後に気配を感じた勘右衛門は落ちてくる瞼を無理やり押し上げた。

気配は茂みから飛び出しこちらに向かってまっすぐ駆けてくる。夜は明けたが未だかはたれ時と言われる時分で、相手の顔や服装までは視認できない。勘右衛門は舌打ちしつつ即座に懐から苦無を出し相手を迎撃する体制を整える。それを知ってか、ようやく昇り始めた朝陽に照らされた相手の手にもまた、尻に輪のついた武器が鈍く光った――敵も忍か。
裏裏山は学園の敷地外で、どこの忍者が潜んでいてもおかしくはない。プロの忍ならば上級生とはいえまだまだ修行中である勘右衛門では打ち負かすことは難しいだろう。ならばどこの忍か確認して学園まで逃げ延び先生方に報告せねばなるまい。勘右衛門は気合いを入れて睡魔を完全に追い払い、集中力を高めて戦闘に臨んだ。

数度の斬り合いで勘右衛門は相手が己より若干上手だと悟った。この程度の実力差ならば隙を付いて逃げることは難しいことではないと思うものの、相手はなかなか隙を見せてはくれない。
斬り合いを続ける僅かの間に、薄い雲が空を覆い霧雨が降りだし視界が悪くなる。不意に足元がふらついた隙をつかれ苦無を弾き飛ばされてしまう。勘右衛門の苦無は、近くの木の枝に小気味いい音を立てて突き刺さった。食欲が無いと食事を怠っていたことと睡眠不足が祟ったかと苦々しく思いつつ、続く斬撃による負傷をなるべく軽くしようと身体の前で腕を交差させ身を護る体勢を取る。
が、想定した攻撃は訪れず、代わりに交差させた腕を掴まれて地面に引き倒された。地面に倒れる衝撃でまだ治りきっていない傷が僅かに痛みを訴えたが、集中力を高めることで打ち消した。
雲の向こうに昇る太陽の光が徐々に増して、辺りが大分明るくなってきていた。逃げる方法を考えつつ被さってくる相手を観察していた勘右衛門は、光に照らされた相手の姿にハッと目を見開いた。武器を失った勘右衛門に相手が苦無を使わなかった、謎の行動とその理由に思い至る。

「――…鉢屋」

押し倒した体勢で自分を見下ろしたのは薄色の瞳だった。動揺に勘右衛門の瞳が揺れる。同時に先刻睡魔によって掻き消された恐怖が再びにじり寄ってきて、勘右衛門は彼から顔を逸らした。顔を正視できるほど太い神経など勘右衛門は持っていない。だが。

「こんな所にいたのか勘右衛門!なんで学園に帰ってこない!」

唐突に上から怒鳴りつけられる。相変わらずの上からの物言いを耳にし、また消耗した状態で必死に斬り合った相手が鉢屋であること、たまりにたまった疲労も手伝って勘右衛門は怒りを覚えた。気まずさも恐怖も吹っ飛び、負けず劣らずの迫力で怒鳴り返した。

「――なんでお前がそんなこと!おれが帰ろうが帰るまいがお前には関係ないだろ!」
「関係ならあるわ!お前が戻らないから迷惑しているんだ!」

鉢屋はひるまず即座に怒鳴り返してきた。それで勘右衛門の負けん気に火がつき、鉢屋がそれに応戦する形で怒鳴り合いになった。早朝の山中、霧雨の中地面に転がった者とその上に被さった者とが怒鳴りあう珍妙な様が展開された。

「へぇ!じゃあどう迷惑してるのか言ってみろよ!委員会は却下だからな!休暇中は仕事ないんだから!」
「この私がそんな馬鹿みたいな答えを用意してると思ってるのか!」
「それ以外に何かあるかよ!何もないだろ!」
「あるっていってるだろう!」

鉢屋がそう宣言して偉そうに胸を張り、一呼吸おいてから口を開いた。

「お前が欲しいんだ、抱かせろ!」

その発言が余りにも直球で勘右衛門は瞠目した。照れ屋な鉢屋がそんなことを言うなんてどんな珍現象だろうか、また胸を張っていう事ではないだろうという滑稽さに言葉を失う。だが、やはり上からの発言でありかつ内容が最低であったため、勘右衛門は瞬時に目じりを釣り上げた。

「はぁ!?何馬鹿なこと言ってんの!?ふざけんな!!」
「ふざけてなどいない!話を聞け勘右衛門!!」
「ふざけてるだろ!契約はお前が破棄したし色魔なんぞ要らんって言ってただろ!今更何の話をしようってんだよ!」
「じゃあ破棄は取り消す!だから話を…」
「都合のいいこと言いやがって誰が聴くか!あーーーーー!!聞こえない何も聞こえなーーーい!!」 「小癪な真似を!こら、耳から手を外せ!!」

まるで子供の喧嘩のように耳を塞いでわめく勘右衛門に、鉢屋は文句を言いながらその腕に掴みかかった。暫しのもみあいの末、ついに鉢屋が勘右衛門を力任せに押さえつけて手を外させることに成功する。自由を奪われた勘右衛門はギロッと鉢屋を睨みあげた。

「怪我人に乱暴するなんて最低だなお前!」
「やかましい!私がお前が欲しいと言っているのにお前が人の話を聴かないから…」
「だから!おれはやだって言ってるだろ!」
「なんで!」

好意を知るや否や終わったことを蒸し返し関係を求めてくる鉢屋に、怒りで脳が沸騰するようだ。その反面、やはり自分はその程度の存在なのだと思い知らされて、深い悲しみが胸に押し寄せる。様々な感情と思考が入り乱れ混乱した脳を置き去りに、勘右衛門は反射で怒鳴り返した。

「おれと兵助の話聞いてたんだろ!辛いからやだって言ってんのが分かんないのか鬼かお前は!」
「だから何が辛いんだよ!」
「だから!おれはお前が好きなのに!雷蔵を好きなお前にこれ以上!抱かれるなんてごめんだっていってるだろ!何で分かんないの!?」
「だから!私はお前が好きだと言っている!」
「だからおれ、は……………はぁ?」

勘右衛門は更に言い返しかけて鉢屋の言葉を反芻して一時停止した。それから真上にある鉢屋の顔を薄ら笑って見返した。

「何がだからなの初耳だけど。ていうか何言ってんの?ばかなの?鉢屋は不破にホの字なんて上級生の常識だぜ?誰がそんなあからさまな嘘信じるかっての!」

呆れ半分に鉢屋の発言を笑い飛ばした勘右衛門は一変、憤怒の形相に豹変する。

「大体さーおれがお前好きだって分かった上でそういう嘘つくのって最低じゃね?あー分かった。アレだろ、おれが騙してたの根に持ってて仕返ししてやろうって魂胆だろ?ま、おれのついた嘘も最低の部類か。でも誰がそんな与太話に引っかかるかよ!もっと上手な嘘つけよな、千の顔を持つ男の名が泣―――ってぎゃあっ!?」

機関銃のように糾弾し続けていた勘右衛門が突如色気のない悲鳴を上げた。沈黙して勘右衛門の口上を聞いていた鉢屋が突如、勘右衛門の上衣を剥いたのだった。

「ちょ…っ、何すんだおいコラマジふざけんな!!」

怒りと羞恥で頬に朱の差した勘右衛門が怒りも露わにもがき抵抗するが、鉢屋はそれをスルーして露わにした勘右衛門の首筋に顔を埋めた。柔らかい感触に知らず身体がビクリと跳ね、勘右衛門は耳まで赤くして抵抗する腕に更に力を込める。

「いい加減にし…っ、んん」

抵抗の言葉を吐こうとした唇を塞がれる。貪るという言葉がしっくりくるような、荒々しい接吻。吐き出そうとしていた罵詈雑言はみな、呼吸と共に鉢屋のそれに根こそぎ奪われてしまった。
喚きあっていた二人が黙し、人気のない山中は音もなく降る霧雨の音が耳に届くほど静かだ。しかし勘右衛門の耳にはうるさく響く己の心臓の音と漏れた二人の吐息しか聞こえない。
長い長い空白の後、ようやく解放された勘右衛門は言葉を次ぐことができないほど息を乱していた。それでも責めるように睨みあげる勘右衛門の瞳は息苦しさと鉢屋に煽られた残り火で潤み、むしろ男の欲を煽るようだった。そんな勘右衛門を鉢屋は真上から覗き込む。

「私がこういうことをしたいと思うのはお前だけだ」

未だ息の整わない怪訝な顔の勘右衛門に、憎たらしいほど息の乱れていない鉢屋が続けざまに真顔で言葉を放つ。

「学園を出る前に、雷蔵に思いを告げてきた」
「――…そっか」

唐突に始まった思いもよらない鉢屋の告白に、勘右衛門の瞳が揺れる。それまで勘右衛門の頭を支配していた怒りやその他の訳のわからない感情が全て霧散する。整いつつある息の隙に、震えそうになる声に気付かれぬよう小さく言葉を返した。

「でも笑われた」
「…たった一回で挫折したのかよ」

未だ平静さを取り戻せない勘右衛門は、ちょっと安堵した情けない自分を隠したくて鉢屋から顔を逸らして悪態をついたが、鉢屋は淡々と言葉を紡ぐ。

「雷蔵は笑って私に、接吻してみるか、と言った」
「……なんだ、上手くいったんじゃん。……よかったな」

強い衝撃。勘右衛門は頭が真っ白になった。間をおかず返答できたその声は若干ひっくり返っていたが、襲い来る虚無感と胸の痛みとに苛まれそこまで気を回す余裕がなかった。それでも淡々とした調子のまま話は続く。

「それから、私の雷蔵への気持ちは恋愛感情じゃないと、言われた」
「………はぁ?」

予期した拒絶の言葉はなく前後の繋がりが意味不明で、勘右衛門は思わず鉢屋へ視線を戻した。そこに居たのは相変わらずの無表情で勘右衛門をまっすぐ見下ろしている鉢屋だった。その視線があまりにもまっすぐで、勘右衛門は目を逸らすことができなくなった。鉢屋は淡々とした調子を崩さない。

「接吻してみようかって言われて、勿論してみた。そりゃ、緊張はしたさ。けど、実際してみたら唇がくっついたってだけで」
「…雷蔵に違うって言われたから、信じちゃったんだ?」

凪いだ琥珀色の瞳を見つめる内に落ち着きを取り戻し、静かに問いかけた勘右衛門に、鉢屋はわずかに首を横に振って応える。その時勘右衛門は鉢屋の前髪に光る雫をぼんやりと見つめていた。先ほど感じていた胸の痛みは消え失せて、静かな心で自分の想いの終わりを受け入れ始めていた。

「雷蔵は、恋って言うのは“どうしても欲しい”とか、もっとずっと強い感情だと言った。もっと知りたい、触りたい、独り占めしたい。例えその相手が泣いても、嫌がっても…と」
「そう思う相手が雷蔵なんだって、ちゃんと説明できなかったの?」

先ほどの怒鳴り合いとは対照的に言葉を交わす二人を霧雨が包んでいた。
まっすぐに見つめられ、まっすぐに見つめ返す。驚くほど静かで、穏やかな沈黙。

「――思い浮かんだのはお前だった」

鉢屋の小さく、しかしはっきりとした言葉が勘右衛門の耳に届く。しかし虚無に抱かれた勘右衛門の中を意味をなさない単語として繰り返し行き来するだけだった。
反応のない勘右衛門に焦れたのか、鉢屋が動いた。しかし勘右衛門はボーっとしたままそれに気づかない。

「―――最中のお前を思い出して、ムラムラした」

艶やかな色気を帯びた声音が耳に忍び込む。同時に濡れた生温かい物が耳にねじ込まれ、勘右衛門は小さな悲鳴を上げ首をすくめた。強烈な言葉と行為で現実に引き戻された勘右衛門は、直接響く湿った音と感触に頬を火照らせ身を捩って抵抗する。

「…っそ、れは……おれとはシたことがあって、…雷蔵とは、ぁ、…シたことがないから、ってだけ、で…」
「違うな。接吻した時も含めて、雷蔵にはこういうことをしたいなんて思ったことがない」

漏れそうになる声を堪えながら反論する勘右衛門の耳を開放した鉢屋は、それを否定した。再び首筋に顔を埋め、ちゅっと音を立てて首筋を吸い上げる。ピリッとした痛みに、鉢屋がそこに己の印を刻み付けたことを知る。勘右衛門が反射的に腕を伸ばして鉢屋を押しのけようとしたが、その腕は鉢屋によって濡れた地面に縫いとめられた。

「……うそだ」 「嘘じゃない」

霧雨に溶けてしまいそうな小さな声を、鉢屋は優しく、しかしきっぱりと否定した。困ったように眉根を寄せ戸惑いも露わに目線を彷徨わせる勘右衛門を、鉢屋はじっと見下ろす。震える勘右衛門の唇が何度か開閉し、そしてたどたどしく言葉を紡ぐ。

「…おれがひどい嘘ついたから、復讐しようとしてるんだろ…?」
「本気だ」
「……だって、どう考えてもありえないだろ…」

目線を合わせようとせず緩く首を振り頑なに否定し続ける勘右衛門を、鉢屋は自分の下半身を押し付けることで黙らせた。勘右衛門は身体を戦慄かせて、首まで赤くなって硬直した。

「こんな山の中でさえ、お前を見つけた瞬間組み敷いてやりたいと思った。口を吸って服を乱して私の印をつける。たったこれだけしかしていないのに、もう抑えが利かなくなってきてる」

言いながら首筋を舐め、鎖骨にも痕を残してから身を起こした。ようやく鉢屋を見上げた勘右衛門の視線が、情欲に染まり濃さを増した琥珀とかち合う。強い光に絡め取られた勘右衛門は鉢屋の濡れた瞳をみつめたまま、音を立てて唾を飲み下した。

「お前が気付かせたんだろう、雷蔵への思いは恋じゃないと。…責任を取ってもらうからな」

物騒なことをいいながら鉢屋は照れ臭そうに小さく笑った。暫く目を見開いて沈黙していた勘右衛門は、蚊の鳴くような声で嘘だ、とつぶやいた。琥珀が映り込み複雑な色を放つ瞳がじわりとにじむ。 うそだ、うそだ…とうわ言のように繰り返す勘右衛門の目からあふれ出る雫を鉢屋が何度も舌ですくい取った。

「この間は悪かった…――お前が私を避けてるのにはすぐに気付いたんだ。何故なのか分からなかったし…変わらず近くに居るのに距離があって触れられない。しかも兵助とやたらベタベタしやがって。雷蔵と一緒に居ても苛々してた――…らしい。特にい組と一緒だった後すごく、と雷蔵が。その理由はもう知ってるんじゃないかな?とも――雷蔵は私のこと御見通しだったんだな」
「…うそだ」

苦みを含んだ半分以上独白のような鉢屋の言葉に、勘右衛門はただ同じ言葉を繰り返すしかできない。

「言い訳になるが、聴いてほしい。喧嘩したあの日、お前の帰りを待ち構えてたんだ。いい加減苛ついていたし我慢ならなくなっていたから問い質してやろうと思って。そしたらお前が誤魔化して逃げた挙句誰だかも分からん奴に怪我させられたらしいって聞いて血管がぶち切れそうだった。相手を痛めつけてやりたいってのもあったし、怪我に気付かなかった私自身と、私を頼らなかったお前に腹が立った。猛烈に腹が立ってて、お前の無茶苦茶な芝居すら見抜けなかった」

話が終わってもなお言葉無くすすり泣く勘右衛門に、泣くな…と鉢屋が囁きかける。暫く涙をすくわれたり囁かれたり、背中をポンポンと赤子のようにあやされて次第に落ち着いてきた勘右衛門は、小さな声で何事かを言った。聞き取れなかったらしい鉢屋が目を瞬かせると、勘右衛門が涙にぬれた瞳で鉢屋をまっすぐに見上げる。

「ちゃんと言ってよ、鉢屋。おれを、どう思ってるの…」
「…お前が好きだよ、勘右衛門」

空いっぱいに瞬く星のように光の散った勘右衛門の瞳をまっすぐにみつめ、はっきりと告げる。和らぐ薄色の瞳を見返した勘右衛門は顔をくしゃりと歪め、鉢屋の首にかじりついた。顔に霧雨の当たる感触が優しく、一層勘右衛門の感情を昂らせる。

「おれも…好き。…ずっと…好きだった…」

鉢屋がかじりついた勘右衛門の頭を片腕で抱き寄せ、穏やかで優しい沈黙に包まれた。

暫しして、身体を離し地面に座った二人が顔を合わせて照れ臭そうに笑い合った時。
薄暗い空から光の筋が落ちてきて、辺りが急に明るくなった。驚いた二人が空を見上げると、さっきまで薄い雲に覆われていたはずの空がぽっかりと開いて澄み渡った青が広がっていた。

「…きつねの嫁入りだぁ…」

勘右衛門が珍しいものを見た、というような顔で嬉しげに姿を現した青空と太陽を見上げた。降り続ける細やかな雨と濡れ鼠のような勘右衛門に太陽の光が当たり、きらきらと輝いている。

「…たぬきが嫁入りしたんだけどな」

鉢屋が一緒に空を見上げつつ勘右衛門の腰に手を回しながらボソッと呟くと、半眼になり頬を染めた勘右衛門に殴られた。

しばらくそうやって空を眺めた後で、鉢屋が勘右衛門を背負い学園へゆっくりと歩き出した。 泥まみれでずぶ濡れの二人がくしゃみを連発しながら帰ってゆくのを、天高い秋の空に燦然と輝く太陽が優しく見守っていた。

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*あとがき

室町狐狸合戦!ようやく完結となりました。如何でしたでしょうか。最終話かなり迷走したのですが…ご期待に添えたでしょうか。
私自身ハッピーエンドが好きなのでこういう形になりました。本当はもっと甘々した別のお話になる予定だったのですが、途中プロット失くして謎な展開になりました…スイマセンホントスイマセン。
一年以上こねこねしてきたわけですが、無事最後まで形にすることができてとても嬉しいです。それもこれも皆読んでくださった、応援して下さった皆様のお蔭だと思います。遅筆で本当にすみませんごめんなさいありがとうございました。
長い間お付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました!
2012年9月吉日

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